文化遺産
資産名:アッピア街道:レジーナ・ヴィアルム(街道の女王)
正式名:Via Appia. Regina Viarum
国名:イタリア
登録年:2024年
登録基準:(iii)(iv)(vi)
概要:
アッピア街道は、全長800キロメートル以上に及ぶ古代ローマの主要街道であり、紀元前312年から西暦4世紀にかけて建設・拡張された。もともとは軍事征服を目的とした戦略的な道路として整備され、ローマとカプアを最短で結ぶルートとして監察官アッピウス・クラウディウス・カエクスの指揮のもとに造られた。領土拡大に伴い、ベネヴェントゥム、タレントゥム、ブルンディシウムなどへ延伸され、東方や小アジアへの征服への道を切り開いた。征服地域が安定すると、アッピア街道は交易や文化、農業生産の活性化を促す重要な交通網へと発展し、利用は無料となった。さらに、西暦109年には、トラヤヌス皇帝によって延長路としてトラヤヌス街道が整備され、アドリア海沿いの都市間連絡も強化された。
この街道は、ローマ技術者たちによる高度な土木工学や大規模な土地改良工事の成果を示すものであり、街道沿いには軍事用のマイルストーン、噴水、宿場町、ネクロポリスなど、旅行者の便宜を図る多くのアメニティが設置された。また、凱旋門、浴場、円形劇場、大聖堂、水道橋といった壮大な建造物群もこのルートに沿って建設され、都市の発展や宗教的聖域の形成に大きな影響を与えた。中世以降は、ローマ教会による農業復興や巡礼、十字軍の移動路として利用され、ルネサンス期には古代遺産への関心の高まりを背景に修復工事が行われるなど、何世紀にもわたってその機能と価値を変えながら使用され続けた。
また、「アッピア街道:レジーナ・ヴィアルム」として知られる連続遺産は、ローマ文明の優れた組織力と技術、さらには都市計画や土地分割の基準としての役割を明確に示している。そこには、神殿や埋葬記念碑、水道橋、ヴィラといった記念的な建造物や都市の入り口を飾る凱旋門や劇場など、古代の文明の痕跡が集積している。これらは、ローマが築いた土木技術やインフラ整備の革新性を証明すると同時に、後世における学術研究や芸術、文学の対象となり、グランドツアーの重要な見学路としても評価されてきた。
現代においては、アッピア街道は文化遺産として2002年の文化遺産・景観法に基づいて保護管理されている。文化省および考古・美術・景観に関する地方事務所が連携し、遺産の保全、修復、保護に努め、各地域の景観計画や建築許可の管理体制を通じて、改変が厳しく規制されている。こうした包括的な管理体制により、アッピア街道はその歴史的、技術的、文化的価値を後世に伝える重要な証拠として、今なお高い評価を受け続けている。