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世界遺産リストに登録されるためには、いくつかの前提条件を満たす必要があります。
- 遺産を保有する国が世界遺産条約の締結国であること
- 登録をめざす物件が「土地や土地と一体となった物件(不動産)」であること
- 遺産があらかじめ各国の暫定リストに記載されており、ユネスコの世界遺産センターに提出されていること
- 遺産を有する国自身からの推薦であること
- 遺産が保有国の法律などで保護されていること
- 登録をめざす物件が登録基準(後述)の一つ以上を満たすとともに、真正性、完全性を満たしていること
模擬試験問題
世界遺産検定の模擬試験問題
世界遺産の登録基準
登録基準は当初、文化遺産と自然遺産で別々でしたが、2005年の第6回世界遺産委員会特別会合で、作業指針が改定され、文化遺産・自然遺産共通の登録基準(i)〜(x)にまとめられました。
世界遺産委員会の定める「世界遺産条約履行のための作業指針」によれば、世界遺産の登録基準は以下の10項目です。これは、世界遺産条約に定義された「顕著な普遍的価値を有する」(Outstanding Universal Value : OUV)という世界遺産の定義を満たすための具体的な条件のことです。登録基準i〜viの1つ以上を満たして登録された物件は「文化遺産」に、vii〜xの1つ以上を満たして登録された物件は「自然遺産」に、双方の基準それぞれ1つ以上を満たして登録された物件は「複合遺産」として認定されます。
ⅰ)【人間の傑作】人間の創造的才能を表す傑作である。
ⅱ)【文化交流】建築,科学技術,記念碑,都市計画,景観設計の発展に重要な影響を与えた,ある期間にわたる価値観の交流又はある文化圏内での価値観の交流を示すものである。
ⅲ)【文明の証拠】現存するか消滅しているかにかかわらず,ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
ⅳ)【建築・科学技術】歴史上の重要な段階を物語る建築物,その集合体,科学技術の集合体,或いは景観を代表する顕著な見本である。
ⅴ)【伝統的集落】あるひとつの文化(又は複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は,人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である。(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)
ⅵ)【出来事や宗教、芸術】顕著な普遍的価値を有する出来事(行事),生きた伝統,思想,信仰,芸術的作品,あるいは文学的作品と直接または実質的関連がある(この基準は他の基準とあわせて用いられることが望ましい)。
ⅶ)【自然の景観美】最上級の自然現象,又は,類まれな自然美・美的価値を有する地域を包含する。
ⅷ)【地球の歴史】生命進化の記録や,地形形成における重要な進行中の地質学的過程,あるいは重要な地形学的又は自然地理学的特徴といった,地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本である。
ⅸ)【固有の生態系】陸上・淡水域・沿岸・海洋の生態系や動植物群衆の進化,発展において,重要な進行中の生態学的過程又は生物学的過程を代表する顕著な見本である。
ⅹ)【絶滅危惧種】学術上又は保全上顕著な普遍的価値を有する絶滅のおそれのある種の生息地など,生物多様性の生息域内保全にとって最も重要な自然の生息地を包含する。
(出典:文化庁「世界遺産一覧表への登録基準」)
登録基準 (i) 人間がつくった傑作
人類の創造的才能を表現する傑作。これは、必ずしも天才に帰せられる基準ではなく、作者不明の考古遺跡などであっても適用できる。また、かつては芸術的要素を持つことが盛り込まれていたが、現在の基準にはそれはなく、機能美を備えた産業遺産への適用も可能になっている。
基準(i)のみが適用されて登録された物件には、タージ・マハル(インド)、シドニー・オペラハウス(オーストラリア)、プレアヴィヒア寺院(カンボジア)がある。この基準は、「アントニ・ガウディの作品群」や「建築家ヴィクトル・オルタの主な都市邸宅群 (ブリュッセル)」のような創造的才能を発揮した個人に帰する物件にしばしば適用されるのはもちろんだが、ティヤの石碑群(エチオピア)のように制作者も制作年代も定かではない物件であっても、適用されることがある。
基準(i)で登録された日本の世界遺産(5件)
・法隆寺地域の仏教建造物
・姫路城
・厳島神社
・日光の社寺
・ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-
登録基準 (ii) 文化交流
ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。この基準のかつてのキーワードは一方向の伝播を想起させる「影響」だったが、「交流」に置き換えられている。また、建築や記念工作物を対象としていた当初の文言に、文化的景観のために「景観デザイン」が、産業遺産のために「技術」がそれぞれ追加されるなど、対象が拡大してきた。
基準(ii)のみが適用された物件には、コローメンスコエの主昇天教会(ロシア)、シュパイアー大聖堂(ドイツ)、ホレズ修道院(ルーマニア)、ゲガルド修道院とアザト川上流域(アルメニア)、スウェルの鉱山都市(チリ)、王立展示館とカールトン庭園(オーストラリア)などがある。交易上の要衝など、文化交流に寄与した文化遺産にも適用される基準である。そうした例としては、シルクロード:長安-天山回廊の交易路網(中国、カザフスタン、キルギス)などがある。
基準 (ii)が適用された日本の世界遺産(12件)
・法隆寺地域の仏教建造物
・古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)
・厳島神社
・古都奈良の文化財
・琉球王国のグスク及び関連遺産群
・紀伊山地の霊場と参詣道
・ 石見銀山遺跡とその文化的景観
・平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―
・富岡製糸場と絹産業遺産群
・明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業
・ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-
・「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群
登録基準 (iii) 文明の証拠
現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。この基準はもともと消滅した文明の証拠、すなわち考古遺跡をおもな対象とする基準だった。しかし、文化的景観が導入された1990年代に順次改定され、「文化的伝統」や「現存する」といった文言が追加された。
基準(iii)のみが適用された物件には、ブリッゲン(ノルウェー)、アルタの岩絵(ノルウェー)、ミュスタイアのザンクト・ヨハン修道院(スイス)、ベルン旧市街(スイス)、ブトリント(アルメニア)、ヘラクレスの塔(スペイン)、ベニ・ハンマードの城塞(アルジェリア)、メサ・ヴェルデ国立公園(アメリカ合衆国)などがある。この基準は考古遺跡や人類化石遺跡などにも適用される。考古遺跡で適用されている例としてはナスカとフマナ平原の地上絵(ペルー)、モヘンジョダロ(パキスタン)、メンフィスとその墓地遺跡-ギーザからダハシュールまでのピラミッド地帯(エジプト)など、人類化石遺跡で適用されている例としては南アフリカの人類化石遺跡群(南アフリカ共和国)、人類の進化を示すカルメル山の遺跡群:ナハル・メアロット(ワディ・エル=ムガーラ)の洞窟群(イスラエル)などがある。
基準(iii)が適用された日本の世界遺産(9件)
・古都奈良の文化財
・琉球王国のグスク及び関連遺産群
・紀伊山地の霊場と参詣道
・石見銀山遺跡とその文化的景観
・富士山―信仰の対象と芸術の源泉
・「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群
・長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産
・百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群-
・北海道・北東北の縄文遺跡群
登録基準 (iv) 建築・科学技術
人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。この基準はもともと建築に重点が置かれた基準だったが、文化的景観のために「景観」が、産業遺産のために「技術の集積」が追加された。
基準(iv)のみが適用された物件には、ルーゴのローマ城壁(スペイン)、レヴォチャ歴史地区、スピシュスキー城及びその関連する文化財(スロバキア)、フォントネーのシトー会修道院(フランス)、ラ・ショー=ド=フォンとル・ロックル(スイス)、クロンボー城(デンマーク)、ペタヤヴェシの古い教会(フィンランド)、バハラ城塞(オマーン)、アブ・メナ(エジプト)、ビニャーレス渓谷(キューバ)、グアラニーのイエズス会伝道所群(ブラジル・アルゼンチン)などがある。
基準(iv)が適用された日本の世界遺産(11件)
・法隆寺地域の仏教建造物
・姫路城
・古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)
・白川郷・五箇山の合掌造り集落
・厳島神社
・古都奈良の文化財
・日光の社寺
・紀伊山地の霊場と参詣道
・富岡製糸場と絹産業遺産群
・明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業
・百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群-
登録基準 (v) 伝統的集落
ある文化(または複数の文化)を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。この基準はもともと伝統的な集落や建築様式を主な対象とするものだったが、文化的景観の導入を反映して「土地利用」に関する文言が追加され、のちには陸上だけでなく海上についても明記された。
基準(v)のみが適用された物件には、クルシュー砂州(ロシア / リトアニア)、マドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷(アンドラ)、ホッローケーの古い村落とその周辺(ハンガリー)、ヴェーガ群島(ノルウェー)、アシャンティの伝統的建築物群(ガーナ)、オマーンの灌漑システム・アフラジ(オマーン)などがある。文化的景観はしばしばこの基準が適用される。
基準(v)が適用された日本の世界遺産(3件)
・白川郷・五箇山の合掌造り集落
・ 石見銀山遺跡とその文化的景観
・北海道・北東北の縄文遺跡群
登録基準 (vi) 出来事や宗教、芸術
顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの(この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている)。
基準 (vi) のみが適用されて登録されるのは、例外的なケースである。原爆ドーム(日本)、ゴレ島(セネガル)、アウシュヴィッツ強制収容所(ポーランド)など、いわゆる負の世界遺産には、このケースがまま見られる。このほか、リラ修道院(ブルガリア)、独立記念館(アメリカ合衆国)、ランス・オ・メドー国定史跡(カナダ)、ヘッド-スマッシュト-イン・バッファロー・ジャンプ(カナダ)なども、(vi) のみが適用されている。
基準 (vi)が適用された日本の世界遺産(9件)
・法隆寺地域の仏教建造物
・厳島神社
・古都奈良の文化財
・日光の社寺
・琉球王国のグスク及び関連遺産群
・平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―
・富士山―信仰の対象と芸術の源泉
・ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献-
・広島平和記念碑
登録基準 (vii) 自然の景観美
ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性をもつ最高の自然現象または地域を含むもの。「美しさ」は客観的な判定が難しいため、後述の基準 (10) が変更された1992年以降、諮問機関はこの基準単独での登録勧告をあまりしなくなっているとされる。
基準 (vii) のみが適用された物件には、サガルマータ国立公園(ネパール)、キリマンジャロ国立公園(タンザニア)などがある。
基準 (vii)が適用された日本の世界遺産(1件)
・屋久島
登録基準 (viii) 地球の歴史
地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。これには生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。この基準に言う「生物の記録」とは化石のことで、カンブリア紀の化石産地である澄江の化石産地(中国)などが含まれるが、南アフリカの人類化石遺跡群などの化石人類関連の遺跡はこの基準ではなく、基準 (3) の対象となる。
基準 (viii) のみが適用された物件には、ワディ・アル・ヒタン(エジプト)、フレデフォート・ドーム(南アフリカ共和国)などがある。
基準(viii)が適用された日本の世界遺産はない。
登録基準 (ix) 固有の生態系
陸上、淡水、沿岸および海洋生態系と動植物群集の進化と発達において進行しつつある重要な生態学的、生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
基準 (ix) のみが適用された物件には、白神山地(日本)、東レンネル(ソロモン諸島)などがある。
基準(ix)が適用された日本の世界遺産(4件)
・屋久島
・白神山地
・知床
・小笠原諸島
登録基準 (x) 絶滅危惧種
生物多様性の本来的保全にとって、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。これには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが含まれる。この基準はもともと絶滅危惧種の保護に力点が置かれた基準であり、「生物多様性」に関する文言は当初なかったが、1992年の生物多様性条約成立後に盛り込まれた。
基準 (x) のみが適用された物件には、オカピ野生生物保護区(コンゴ民主共和国)、ニョコロ=コバ国立公園(セネガル)などがある。
基準 (x)が適用された日本の世界遺産(2件)
・知床
・奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島
模擬試験問題
世界遺産検定の模擬試験問題
真正性と完全性
保有資産が顕著な普遍的価値を有するとみなされるには、上記10の基準に加えて、「真正性」と「完全性」を満たしていることも必要です。
真正性
真正性(authenticity)とは、特に文化遺産について、そのデザイン、材質、機能などが本来の価値を有していることをさしています。具体的には、建造物や景観などが、それぞれの文化的背景の独自性や伝統を忠実に継承していることが求められます。そのため、修復の際には創建時の素材や公布、構造などが可能な限り保たれる必要があります。
真正性をめぐっては、登録に際して紛糾した事例も少なくありません。「ワルシャワ歴史地区」の場合には、第二次世界大戦で徹底的に破壊された地区が全面的に復元されたため、真正性をめぐって議論が起こりましたが、もとの景観が忠実に復元されていると認定されたため、真正性の条件をクリアしました。
堅牢な石造りの建築物を主体とするヨーロッパの遺産と違い、木や土で建造されることの多いアジア、アフリカの遺産は、真正性の点では不利になることが懸念されます。そこで、1994年に奈良市で開催された「世界遺産の真正性に関する国際会議」では、真正性はそれぞれの文化的背景を考慮するものとし、木造建築などでは、建材が新しいものに取り替えられていても、伝統的な工法・機能が維持されていれば真正性が認められることになりました(「奈良文書」)。
世界遺産検定の模擬試験問題
完全性
完全性 (integrity)とは、当該物件が顕著な普遍的価値を有することを証明するために必要な要素(保全計画、法体制の整備、十分な広さ、予算、人員など)が完全に揃っていることをさしています。
具体的には、構成資産の範囲を広げすぎると、完全性の要件を満たさないと判定されることがあります。そのため、あくまで「関連性のある資産」に限定して申請することで、遺産登録が実現するケースも少なくありません。例えば、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の場合、当初は10件の構成物件で申請されていましたが、「絹産業の技術革新と国際交流」という普遍的価値の保有に焦点を当てることにより、構成資産を4件に絞り込み、登録実現にこぎつけることができました。
諮問機関は、範囲の設定に不足がある推薦の場合には範囲の再考を勧告するが、逆に余計な要素が含まれていると判断した場合には、特定の要素の除外を条件にした登録勧告を示すことがある。たとえば、富士山-信仰の対象と芸術の源泉の推薦では三保松原の除外が、「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群の推薦では新原・奴山古墳群などの除外がそれぞれ勧告された(いずれも逆転で登録)。他方、平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―の推薦で除外が勧告された柳之御所遺跡は、委員会審議でも勧告通りに除外と決まった例である。
自然遺産では、生物学的な過程や地形上の特徴が比較的無傷であることが求められ、世界遺産登録範囲内でも人間の活動は生態学的に持続可能なものであることが求められます。加えて、自然遺産では、登録基準ごとに完全性の条件が細かく定義されており、滝を中心とした景観の場合は隣接集水域や下流域を含むことや、渡りの修正を持つ生物種を含む地域では渡りのルートの保護も求められることが作業指針に書かれています。
(Wikipediaより)