基本情報
文化遺産
資産名:ティエベレの王宮
正式名:Royal Court of Tiébélé
国名:ブルキナファソ
登録年:2024年
登録基準:(iii)
概要
ロイヤル・コート・オブ・ティエベレの概要と保全について
ロイヤル・コート・オブ・ティエベレは、16世紀以来、ブルキナファソの首都ワガドゥグーの南172km、ガーナ国境の北約15kmに位置するカセナ民族の伝統的な土造りの建築群である。この建築群は、カセナ文化の社会構造や価値観を反映しており、住居の形状や配置が住人の社会的地位によって決められている。例えば、年長者や未亡人、未婚女性、子どもが住む「ディニアン」は8の字型、若い夫婦の家「マンゴロ」は四角形、青年や未婚男性の住居「ドラー」は円形という特徴がある。
また、この王宮には象徴的な神聖な要素が数多く存在する。王族の新生児の胎盤を埋める「プル」、宮廷の入口を示す赤いイチジクの木、その下に置かれる神聖な石「ダラ」、王族の祖先の墓「ナバリ」、法廷として機能する「ナンコンゴ」、王宮の墓地「ボナレ」などがあり、カセナ民族の伝統的な儀式や信仰を今に伝えている。
この建築群は単なる遺跡ではなく、**現在も人々が生活を営む「生きた文化遺産」**である。特に、宮廷内の壁画装飾は女性だけに許された技であり、古くから伝わる模様を守りつつも、新たな意匠を加えながら世代間で受け継がれている。また、祖先崇拝や葬儀の儀式は、カセナ文化の精神的・時間的儀礼の一環として重要な役割を果たしている。
ティエベレ王宮の価値は、その独特な土造り建築技術、空間の社会的・機能的分布、男女の役割、装飾様式、建築形態の多様性にある。これらの特徴は、カセナ文化の持続的な変遷の中でそのアイデンティティと価値観を守りながら進化してきた証として重要視されている。
しかし、王宮の保全にはいくつかの課題がある。都市開発からは守られているものの、メンテナンスの不足や一部の建物の崩壊、新しい建材や化学物質の使用などが問題となっている。また、アドビ技術の普及、セメントレンガの基礎や防水塗料の使用が増えることで、本来の建築技法や装飾の伝統が損なわれる可能性がある。
そのため、ブルキナファソ政府は、王宮を文化遺産として保護する法律や規制を整備しており、2022年から2026年にかけての保全管理計画も策定された。この計画のもと、地域委員会と科学委員会が設立され、保存活動や研究が進められている。さらに、土地利用や開発プロジェクトの影響を考慮し、文化遺産影響評価(HIA)を導入することで、持続的な保護と管理を目指している。
ティエベレ王宮は、カセナ民族の伝統と文化を今に伝える貴重な建築遺産であり、その保護と継承には適切な管理が不可欠である。