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世界遺産が登録されるまでのプロセスは、次に示すようなステップで行われます。
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1暫定リストの作成・提出
世界遺産条約締結国は、遺産登録したい物件の暫定リストを世界遺産センターに提出します。
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2暫定リストから要件の整ったものを推薦
暫定リストに記載された遺産の中から、推薦要件をみたすものを1年に1件まで世界遺産委員会に推薦することができます。
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3世界遺産センターで推薦書を受理
推薦書に不備がなければ、世界遺産センターで受理されます。
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4推薦物件の現地調査を依頼
世界遺産センターでは、推薦書にもとづいて、文化遺産はICOMOSに、自然遺産はIUCNに専門調査を依頼します。
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5現地調査の実施、結果の報告
ICOMOSとIUCNは現地調査を行い、調査結果をふまえて事前審査を行います。
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6世界遺産委員会で審査、決議
世界遺産委員会は、諮問機関の事前審査を踏まえて候補地を審査し、登録可否の決議を行います。
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7正式登録
世界遺産リストへの登録を正式に決定します。
暫定リストの作成
自国の文化遺産や自然遺産の世界遺産登録をめざす国は、まず最初に暫定リストを作成してユネスコの世界遺産センターに提出しなければなりません。このリストに掲載されていないものを世界遺産委員会に登録推薦することは認められません。
暫定リストは1年から10年以内をめどに登録申請をめざすリストで、10年ごとに見直し、再提出することがのぞましいとされています。暫定リストへの掲載にあたっては、その遺産が顕著な普遍的価値を有するものであること、保護活動が適正に行われていることを確認することが求められています。世界遺産委員会で最終的に「不登録」と決議されたものを暫定リストに掲載し続けることは、原則として認められていません。
推薦書の提出と受理
各国は、暫定リストに記載された遺産のなかから、推薦の要件が整ったものを1年に1件まで世界遺産センターに推薦することができます。
推薦書に記載すべき事項は、資産の登録範囲と内容、それが顕著な普遍的価値を有することの証明、脅威を与える要素などについての保全関連情報などです。
推薦の際には、前年の9月30日までに推薦書の草案を提出し、世界遺産センターの事前チェックを受け、指摘された書類上の不備などを修正した上で、翌年の2月1日までに、遺産の顕著な普遍的価値を証明する書類や遺産の保全体制・計画などを記載した正式の推薦書を世界遺産センターに提出することになっています。
草案の提出は任意ですが、2月1日までに提出した正式の推薦書に不備があった場合には、受理されず、翌年以降の再提出を求められることになります。
諮問機関による事前審査
推薦書が受理されると、世界遺産センターは、文化遺産については国際記念物遺跡会議(ICOMOS)、自然遺産については国際自然保護連合(IUCN)という2つの諮問機関に事前審査を委託します。ICOMOSとIUCNはその年の夏から秋にかけて現地調査を行い、推薦書の内容について事前審査を行います。現地調査の担当者は原則として1人で、調査結果をふまえて複数名で評価報告書が作成され、世界遺産委員会の6週間前までに世界遺産センターに提出されます。
評価報告書に記載される事前勧告は、「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録(不記載)」のいずれかのカテゴリーで行われます。
ICOMOS
ICOMOS(イコモス)とは、国際記念物遺跡会議(International Council on Monuments and Sites)のことで、文化遺産保護に関わる国際的な非政府組織(NGO)です。1964年に採択されたヴェネツィア憲章を受けて、1965年に設立されたものです。本部はパリに置かれています。
建築物や考古学的遺産の保全のための理論や方法論、保全への科学技術の応用を推進することを目的としています。世界遺産委員会に諮問機関として参加しています。また、契約により推薦書作成のアドバイスを行っています。
IUCN
IUCN(国際自然保護連合)は、ユネスコ、フランス政府、スイス自然保護連盟などの呼びかけにより、1948年に設立された国際的な自然保護ネットワークです。約1,200の組織(政府、機関、非政府組織)が会員となり、世界160カ国から約11,000人の科学者・専門家が6つの専門家委員会に分かれて、生物多様性保全のための協力関係を築いています。
世界遺産委員会には、諮問委員会として参加し、事前審査やアドバイスを行っています。本部はスイスのグランに置かれています。
世界遺産委員会での審査と決議
ICOMOSおよびIUCNから提出された評価報告書をもとに、世界遺産委員会で審議が行われ、「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録(不記載)」の4段階で決議されます。それぞれの内容は次の通りです。
登録
「登録」(inscribe)は、世界遺産リストへの登録を正式に認めることです。登録されると、登録国では、資産の概要、適用された登録基準、真正性、完全性、保存状況などを文書にまとめ、顕著な普遍的価値を有することを言明しなければなりません。
情報照会
「情報照会」(refer)とは、一般的に顕著な普遍的価値の証明はできているものの、評価報告書において保存計画などの不備が指摘されている事例で決議されるものです。期日までに該当する追加書類の提出を行えば、翌年の世界遺産委員会で再審査を受けることができます。
登録延期
「登録延期」(defer)とは、顕著な普遍的価値の証明などが不十分とみなされ、根本的な再検討が必要だと判断される場合に下される決議です。この場合、必要な書類の再提出をした上で、諮問機関による再度の現地調査を受ける必要があるため、世界遺産委員会での再審査は翌々年以降になります。
「登録延期」決議は、しばしば不名誉な結果と受け止められ、当該国に大きな失望とショックを与えることがあります。その例は、日本の「平泉:仏国土(浄土)を表す建築・庭園および考古学的遺跡群」です。2006年12月、日本政府は「平泉ー浄土思想を基調とする文化的景観」という名称で世界遺産センターに推薦書を提出しました。しかし、翌2007年にICOMOSの専門家が現地調査を行い、それを踏まえてICOMOSは「登録延期」の事前勧告を行い、2008年7月の世界遺産委員会でも「登録延期」の決議が下されたのです。この審査結果は政府、自治体に大きな衝撃を与え、「平泉ショック」などと呼ばれました。このあと、日本政府はICOMOSの勧告などをもとに名称と内容の修正を行い、2010年に新たな推薦書を世界遺産センターに提出、世界遺産委員会での審査を経て、2011年6月に世界遺産リスト登録の決議が下されるに至りました。
不登録(不記載)
不登録(not inscribe)とは、顕著な普遍的価値が認められなかった物件について出される決議です。「不登録」と決議された遺産は、原則として再推薦することはできません。ただし、新しい科学的知見が得られた場合や、不登録となったときとは異なる登録基準からの価値を認められる場合には、推薦することが可能です。
このように再推薦のハードルが高くなるため、諮問機関が「不登録」の事前勧告を出した時点で、世界遺産委員会での「不登録」決議を回避するために「審議取り下げ」の手続きがとられることも少なくありません。
イコモスによる「不登録」勧告の例として、日本政府がフランスなど6カ国共同で世界文化遺産に推薦したフランス人建築家ル・コルビュジエ(1887~1965)設計の国立西洋美術館本館(東京・台東)など19件の建築物について、ユネスコの諮問機関から「世界遺産にふさわしくない」とする不登録の勧告を受けたという事例(2011年)があります。このときは、世界遺産委員会で、推薦書の根本的な改定などを条件に再推薦が認められる「記載延期」の評価を受け、最終的には2016年にイコモスの「登録」勧告にもとづき、第40回世界遺産委員会において正式に世界遺産に登録されることが決議されました。
イコモスから「不登録」の勧告を受けたもう一つの例は、日本の文化遺産「鎌倉」です。2011年1月に日本政府は「武家の古都・鎌倉」の名称で世界遺産センターに推薦書を提出しました。2012年9月にイコモスの現地調査が行われましたが、2013年4月に、物証の不足などを理由に「不登録」のイコモス勧告が出されました。ユネスコ世界遺産委員会においてイコモス勧告どおり「不記載」の決議がなされた場合は、再推薦ができなくなることから、2013年6月、日本政府は推薦取り下げを決定するに至りました。現在、再推薦、登録に向けた取り組みが続けられています。
模擬試験問題
世界遺産検定の模擬試験問題
参考サイト:
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武家の古都 鎌倉|世界遺産登録をめざして|Kamakura, Home of the Samurai. For the World Heritage
鎌倉市は、武家の古都鎌倉の歴史的遺産の世界文化遺産登録を目指した取り組みを進めています。皆様の暖かいご理解、ご支援をお願いします。
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