世界遺産条約の締結
世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(Convention Concerning the Protection of the World Cultural and Natural Heritage)は、顕著な普遍的価値を有する文化遺産及び自然遺産の保護を目的とし、1972年10月17日から11月21日に、荻原徹日本政府代表が議長を務め、パリで開かれた第17回会期国際連合教育科学文化機関(UNESCO)総会において、1972年11月16日に採択された国際条約である。翌1973年、アメリカ合衆国が最初に世界遺産条約を批准し、締結国数が20カ国に達した1975年12月17日に発効した。略称は世界遺産条約。2020年3月現在、193の国と地域が加盟している。
日本は独自の文化財保護体制があったこと、国内法の整備や分担金の支払い方法が決まらなかったことなどから参加が遅れ、世界遺産条約の受諾書をユネスコ事務局長に寄託したのは、ユネスコ総会での採択から20年を経た1992年6月30日のことであった。同年9月30日に日本で世界遺産条約が発効している。
世界遺産条約の目的
世界遺産条約は、文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷,破壊等の脅威から保護し,保存するための国際的な協力及び援助の体制を確立することを目的としている。そのために、文化遺産や自然遺産の定義、世界遺産リストと危機遺産の作成、世界遺産委員会や世界遺産基金の設立、遺産保護のための国内機関の設置や立法・行政措置の行使、国際的援助などが定められている。
世界遺産条約の主要規定
世界遺産条約では、次の点で重要な意義を有している。
(1) 文化遺産と自然遺産を1つの条約で保護しようとしている。文化遺産と自然遺産の保護は、これまで別々の枠組みで保護・保全が進められてきたが、世界遺産条約では文化遺産と自然遺産を、互いに影響し合う切り離せない人類共通の財産として位置づけ、両方を対象としている。
(2)世界遺産の保護・保全の第一義的な義務・責任は締結国にあることを明記している。締結国は自国の領域にある文化遺産や自然遺産を世界遺産リストに記載すると同時に、自国が有するすべての能力を用いて遺産を保護・保全し、次の世代へ伝えてゆかなければいけないと規定している。同時に、国際社会全体の義務として、遺産の保護・保全に協力すべきであるとも規定している。そのために、第4条では、締結国は自国の領域内にある文化遺産や自然遺産を世界遺産リストに記載すると同時に、自国が有するすべての能力を用いて遺産を保護・保全し、次の世代に伝えていかねばならないと規定している。具体的には遺産保護に必要な法的、科学的、技術的、行政的、財政的措置をとることが求められている。
(3)さらに、教育・広報活動の重要性が明記されている。加えて、遺産を脅かす危機への対策をするための科学的・技術的な研究を進めることも求められている。人びとが遺産の価値や重要性を知ることが、遺産の保護・保全の上で重要である。また、遺産を脅かす危機への対策をするための科学的、技術的な研究を進め、遺産に関する人びとの知識や保護意識を高めるための教育、PRを進めることが必要である。
世界遺産条約締結国会議の開催
2年ごとに開催されるユネスコ総会会期中に開催される。第1回世界遺産条約締結国会議は、1976年11月のナイロビでのユネスコ総会会期中に開催された。世界遺産条約締結国会議では、世界遺産基金への分担金の決定や世界遺産委員会委員国の選定などを行う。
世界遺産条約の概要
Ⅰ 文化遺産及び自然遺産の定義
第1条 文化遺産の定義
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「文化遺産」とは、次のものをいう。
記念工作物 記念的意義を有する彫刻及び絵画、考古学的物件又は構造物、銘文、洞窟住居 並びにこれらの物件の集合体で、歴史上、美術上又は科学上顕著な普遍的価値を有するもの。
建造物群 独立した又は連続した建造物群で、その建築性、均質性又は風景内における位置 から、歴史上、美術上又は科学上顕著な普遍的価値を有するもの。
遺跡 人工の所産又は人工と自然の結合の所産及び考古学的遺跡を含む区域で、歴史上、観 賞上、民族学上又は人類学上顕著な普遍的価値を有するもの。
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第2条 自然遺産の定義
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「自然遺産」とは、次のものをいう。
無機的及び生物学的生成物又は生成物群から成る自然の記念物で、観賞上又は科学上顕著な 普遍的価値を有するもの
地質学的及び地文学的生成物並びに脅威にさらされている動物及び植物の種の生息地及び自生地でありかつ明確に限定された区域で、科学上又は保存上顕著な普遍的価値を有するもの
自然地区又は明確に限定された自然の区域で、科学上、保存上若しくは自然の美観上顕著な 普遍的価値を有するもの
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Ⅱ 文化遺産及び自然遺産の国内的及び国際的保護
第4条 締結国の義務
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各締約国は、第1条及び第2条に規定する文化及び自然の遺産で自国の領域内に存在するも のを認定し、保護し、保存し、整備活用し及びきたるべき世代へ伝承することを確保すること が本来自国に課された義務であることを認識する。このため、締約国は、自国の有するすべて の能力を用いて、また、適当な場合には、取得しうる限りの国際的な援助及び協力、特に、財 政上、美術上、科学上及び技術上の援助及び協力を得て、最善を尽すものとする。
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第5条 締結国の実施義務項目
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(a) 文化及び自然の遺産に対し社会生活における役割を与えること並びにこの遺産の保護 を総合計画の中に組み入れることを目的とする一般的方針を採択する。
(b) 文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用のための機関が設置されていない場合には、妥当な職員体制を備え、かつ、任務の遂行に必要な手段を有する機関を1又は2以上 自国の領域内に設置する。
(c) 科学的及び技術的な研究及び調査を発展させ、かつ、自国の文化又は自然の遺産を脅か す危険に対処するための実施方法を作成する。
(d) 文化及び自然の遺産の認定、保護、保存、整備活用及び機能回復に必要な法的、科学的、 技術的、行政的及び財政的措置をとる。
(e) 文化及び自然の遺産の保護、保存及び整備活用の分野における全国的又は地域的な研修 センターの設置又は拡充を促進し、及びこれらの分野における科学的研究を奨励する。
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模擬試験問題
世界遺産検定の模擬試験問題