ヴィエリチカ (Flickr)

世界遺産の分類 危機遺産

危機遺産

2021年7月31日

危機遺産とは

危機遺産(World Heritage in Danger)とは、ユネスコの世界遺産登録物件のうち、その物件の世界遺産としての意義を揺るがすような何らかの脅威にさらされている、もしくはその恐れがある物件のことである。

世界で最初の世界遺産が誕生した翌年の1979年には、地震の被害を受けたモンテネグロの『コトルの文化歴史地域と自然』が初めて危機遺産リストに記載された。世界遺産リストに記載されている遺産が、自然災害や紛争・戦争による遺産そのものの破壊、都市開発や観光開発による景観悪化、密猟や違法伐採による環境破壊などの重大かつ明確な危険にさらされている場合、危機遺産リストに記載される。

世界遺産委員会によって危機遺産と認定された物件は、危機遺産リストに加えられる。危機遺産は、脅威が去ったと判断されれば危機遺産リストから除外されるが、逆に危機にさらされた結果、世界遺産としての価値が失われたと判断された場合、世界遺産リストそれ自体から削除される可能性もある。

2007年にオマーンの「アラビアオリックスの保護地区」が、2009年にドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」が、2021年に「海商都市リヴァプール」が、それぞれ世界遺産リストから抹消された。

近年では、『ウィーンの歴史地区』のような都市部における経済開発による景観破壊や、シリアやマリの遺産のような紛争による遺産破壊などが問題になることが多い。また、高層ビル建設の計画が持ち上がり、景観の保持が困難になる恐れがあるとして危機遺産に登録された『ケルン大聖堂」』の例などでは、登録後に計画の見直しや緩衝区域(バッファーゾーン)の設定などが行われ、景観が守られた(2006年に危機遺産登録解除)

危機遺産への登録基準

「世界遺産条約履行のための作業指針」に記載された登録基準は以下のとおりである。2019年3月現在、危機遺産リストに登録されている世界遺産は53件ある。危機遺産リストには他にも、エルサレムの旧市街バーミヤン渓谷の文化的景観イエス生誕の地ベツレヘムウィーンの歴史地区などがある。

文化遺産

「決定的危機」

  1. 材質の深刻な悪化」。湿気により岩塩のモニュメント類が劣化したヴィエリチカ岩塩坑(ポーランド、1989年 - 1998年)など。
  2. 構造および / あるいは装飾的特質の深刻な悪化」。ターリバーンに破壊されたバーミヤンの大仏(アフガニスタン、2003年- )など。
  3. 建築上もしくは都市計画上の統一性の深刻な悪化」。コンクリート建築の増加によって伝統的な景観が失われつつある古都ザビード(イエメン、2000年- )など。
  4. 都市空間、農村空間、自然環境などの深刻な悪化」。後継者不足や品種改良の弊害など多面的要因によって二千年来の景観が崩壊しつつあるフィリピン・コルディリェーラの棚田群(2001年 - 2012年)など。
  5. 歴史的真正性の顕著な喪失
  6. 文化的意義の重大な喪失

「潜在的危機」

  1. 当該物件の保護の度合いを弱める法的地位の修正
  2. 保存政策の欠如
  3. 地域的な計画の脅威的効果」。橋の建設計画が持ち上がり、世界遺産リストからの抹消が決議されたドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ、2006年 - 2009年)など。
  4. 武力衝突の勃発もしくは脅威」。旧ユーゴスラビア紛争の影響を受けたドゥブロヴニク旧市街(クロアチア、1991年 - 1998年)など。
  5. 「地理的、自然的、もしくは他の環境的要因による漸進的変化」。例えば、建材である日干し煉瓦の風化が進行しているチャン・チャン遺跡地帯(ペルー、1986年- )など。

自然遺産

「決定的危機」

  1. 「疫病などの自然的要因によるか、密猟などの人工的要因によるかを問わず、その物件が保護に値すると評価される要因となった絶滅危惧種、もしくは顕著に普遍的な価値を持つ種の深刻な減少」。キタシロサイが激減したガランバ国立公園(コンゴ民主共和国、1984年 - 1992年、1996年 - )など。
  2. 「様々な人工的要因による登録物件の自然美もしくは科学的価値の深刻な劣化(抄訳)」。農薬の汚染が深刻化し、世界遺産登録抹消も検討されたスレバルナ自然保護区(ブルガリア、1992年 - 2003年)など。
  3. 「登録物件の完全性を脅かされる上流部や境界部への人口流入」。ルワンダ内戦によって難民の流入が深刻化したヴィルンガ国立公園(コンゴ民主共和国、1994年 - )など。

「潜在的危機」

  1. 「地域の法的保護の位置づけの修正」
  2. 「登録地域内もしくは登録地域を脅かす場所での計画された再入植もしくは開発」。鉱山開発が環境破壊につながっているニンバ山厳正自然保護区(ギニア/コートジボワール、1992年 - )など。
  3. 武力衝突の勃発もしくは脅威」。トゥアレグが起こした内戦に脅かされたアイル・テネレ自然保護区(ニジェール、1992年 - )など。
  4. 管理計画もしくは管理システムの欠如、不足、もしくは不十分な履行」。密猟が横行し、公園スタッフの殺害なども起きたマノヴォ=グンダ・サン・フローリス国立公園(中央アフリカ、1997年 - )など。

例外的措置

原則として、既に世界遺産として登録されているものが対象となるが、ターリバーンに破壊されたバーミヤンの大仏や、イスラエルと敵対しているパレスチナの降誕教会の様に、危機遺産登録を念頭において世界遺産に登録される場合もある(このケースでは世界遺産登録と危機遺産登録が同時)。

「グレートバリアリーフ」危機遺産格下げを回避

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会で23日、オーストラリア東部沿岸に広がる世界最大のサンゴ礁で世界遺産のグレートバリアリーフを「危機遺産」に指定するのを見送ることが決まった。リー豪環境相が声明で明らかにした。(時事通信ニュース 2021年7月23日)

模擬試験問題

世界遺産検定の模擬試験問題

 

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